転職案内の記事などで『ハイヤー乗務員はコミュニケーション力に自信が無くても大丈夫』などと言う文章を目にする事がありますが、これは本当なのでしょうか?
コミュ症とは?
コミュ症”とは──
人付き合いを苦手とする症状。またはその症状を持つ人を指す。留意すべきは──
TVアニメ 古見さんは、コミュ症です。公式サイト
苦手とするだけで、他人と係わりを持ちたくない、とは思っていないことだ。
コミュ症、コミュ障、ともにインターネットで生まれた造語ですが、要するに人付き合いが苦手な性格、若しくはその様な性格を持つ人を指す言葉です。
コミュ症かどうかは別としても、転職の理由として人間関係の辛さが挙げられるのはよくある事ですね。
そんな人間関係に悩む人達の転職先として、ハイヤー乗務員は適切なのでしょうか?
ハイヤー乗務員はコミュ症でも大丈夫?
人付き合いが苦手とまでは言わない普通の人でも、上司や同僚、取引先との人間関係に疲れてしまい、転職を考える人も少なくないでしょう。
そんな人達に向けてかどうかは分かりませんが、ハイヤー乗務員の紹介にチラホラ出てくる甘い言葉…
「ハイヤーは乗せるお客様も限定的だし、上司との関わりも少ないので、人間関係は非常に楽な仕事です」
「ハイヤー乗務員は寡黙な方が好まれるので、コミュ力に自信が無くても大丈夫です」
これって本当なのでしょうか?
現役ハイヤー乗務員の私がズバリ答えるとすれば、半分は本当で半分は嘘です。
人間関係が気楽なのは本当
先ずは「半分は本当」の部分。
ハイヤー乗務員は関わる人数も、関わる時間も限定的なので、人間関係が気楽と言うのは、基本的に本当です。
人と話す機会が少ない
ハイヤー乗務員が関わる人達というのは
- ハイヤー会社の上司(営業所長)
- ハイヤー会社の職員(事務方)
- 配車デスク
- 先輩や同僚
- お客様
などが挙げられます。お客様以外は社内の人間となります。
ハイヤー乗務員は出庫してしまえば一人でお客様に相対する仕事なので、社内の人間もは出庫前と帰庫後の僅かな時間しか顔を合わせません。
加えて言えば、車内でもお客様とは無用な会話をしないのがハイヤー乗務員。お客様から雑談などの会話を求められない限りは、殆ど会話はありません。
つまり普通のサラリーマンに比べても、人とコミュニケーションを取る機会自体が極端に少ない仕事であると言えます。
出世が無いのもメリット?
以前の記事でも触れましたが、基本的にハイヤー乗務員に出世と言う概念はありません。
ベテランでも新人でも立場は同じ乗務員。収入は仕事量次第なのです。(ベテランの方が長年の貢献度がある分、多少の発言権はありますが)
多くの職場において、上司の機嫌を損ねない様に気を使う理由は、出世や収入への影響を気にしての事でしょう。
日々のやるべき仕事をキチンとこなしていれば、上司のご機嫌を取る必要が無いと言うのは、一般のサラリーマンに比べてとても気楽な事だといえると思います。
ノミニケーションは無し
運転という仕事柄、社内の飲み会という物は殆どありません。
仕事の終わる時間や休日も、お客様次第で乗務員毎にバラバラなので、まとまった人数が集まるタイミングを合わせる事自体が難しいのも理由の一つです。
もちろん気の合う乗務員同士で予定を合わせて飲みに行ったりする事や、組合やサークルの飲み会も有るには有りますが、完全に自由参加です。
私の様に飲みに行くのが好きな人からすると寂しく感じる程ですが、飲み会が嫌いな人にとっては嬉しい職場環境でしょう。
お客様によっては…
先程『基本的に』と書きましたが、ハイヤー乗務員でも人間関係に悩む事も有るには有ります。
それはやはりお客様。
気の合わないお客様の担当になってしまうと辛い日々を過ごす事となります。
基本的にお客様には逆らえませんし、クレームでも入れられれば上司から指導が入りますので、車内だけで無く社内でも辛い思いをします。
しかし気の合わない同士が狭い車内で過ごすのは、お気軽にとっても不愉快な状況なので、そう長くないうちに担当変えになる事が殆どです。
下手をしたら、何年も嫌な上司の部下でい続けなければならないサラリーマンよりはマシと言えるでしょう。
ただしコミュ力は必要!
さて、今度は「半分は嘘」の部分です。
敢えてハッキリ言わせて頂きます!
ハイヤー乗務員には、人並みかそれ以上のコミュ力が必要です!
その理由をご説明致します。
お客様とのコミュニケーション
そもそも論として、ハイヤー乗務員は接客業です。接客業でお客様とコミュニケーションが取れなくても大丈夫な訳がありません。
それではお客様とのコミュニケーションについて、深掘りして見ていきましょう。
会話が少ないからこそ難しい
皆さんはコミュ力が高い人と言うと、どんな人を想像しますか?
明るくハキハキと話し、相手との心理的距離を詰めるのが上手な人
辺りをを想像するでしょう。
対してハイヤー乗務員は、
無用な会話はせず、お客様の領域に踏み込まない
のが基本です。先ほどのコミュ力が高い人とは真逆ですね。
この真逆さが『コミュ力が無くても大丈夫』や『コミュ症でも出来る』と言う言葉を生み出す原因なのかも知れません。
しかしそれは間違いです。
会話もせず心理的距離も詰め過ぎず、非常に限られた情報を頼りに、お客様の要望を的確に読み取ってサービスをするのがハイヤー乗務員なのです。
「これで良いですか?」「あっちの方が良いですか?」「どちらにしますか?」
いちいち聞ければ楽で間違いも無いのでしょうが、それではハイヤー乗務員としては失格。言われる前にサラリと要望に応えられてこそ一人前といえます。
上手く聞き出すよりも、聞かずに察する方が難しくコミュ力が必要だと私は思います。
会話力も必要
基本的に会話は少ないとは言え、全く無い訳ではありません。
雑談好きなお客様に対して、つまらない相槌しか打てないのでは半人前。かと言って、話しが弾み過ぎて失礼な発言をしてしまったり、運転が疎かになってしまうのも大問題です。適度に会話に応じつつ、お客様の気分を害さない様に会話を終わらせるテクニックが必要になります。
また、道を間違えたり到着時間に間に合わなかったり等でお客様からお叱りを受けた際にも「え…いや…あの…す、すいません…」ではハイヤー乗務員失格です。明瞭且つ簡潔にお詫びと対応策を伝えられる程度の度胸と会話力は必要なのです。
あ、言うまでもありませんが、雑談にしろお詫びにしろ、話す言葉は正しい敬語が大前提です。日頃から意識して練習しておかないと、咄嗟の時にボロが出ますのでご注意を。
言葉の裏を読む
組織のトップの方々は、本音をダイレクトに言わずに遠回しに伝える事も多いです。
「今日は蒸し暑いねぇ」
と言われれば、それは
「エアコンの温度を下げて」
と言う意味だったりします。この程度なら分かり易いですし、分からなくても大きな問題はありませんが、
「時間に余裕はあるから、急がなくても平気だよ」
と言われた場合、もしかすると
「君の運転は荒くて怖い」
と、やんわりとクレームを言われている可能性もあるのです。
常に相手がどう感じているか?どうして欲しいのか?の真意を探ろうとする心構えがハイヤー乗務員には必要なのです。
ハイヤー乗務員としての醍醐味
以上の様に、ハイヤー乗務員は確かに会話は少ないですが、その上で的確なサービス提供が求められます。
会話が制限された状況で、会話をしている以上のサービスを提供するのがハイヤー乗務員としての醍醐味であり、面白さだと私は思います。
「言ってないのによく分かったね!」
「今日は快適だったよ!」
「また貴方にお願いしたいね!」
なんて言葉をお客様から頂けると、表では澄ました顔で御礼を申し上げますが、心の中では満面のドヤ顔ガッツポーズを決めています。
指示された運行経路を走行して、マニュアル通りの接客をするだけでは、この楽しさは味わえないでしょう。
社内コミュニケーションも大切
「社内の人間とは殆ど顔を合わせません」と書きました。
確かに顔を合わせる頻度も少ないですし、必要最低限の会話だけして仕事をこなす事も可能と言えば可能です。
だからと言って社内コミュニケーションを疎かにしていると、仕事がやり難くなり、長期的に見れば自分も損をする事になります。
配車デスクとのコミュニケーション
配車デスクと良好な関係を築いておかないと、美味しい仕事を回して貰えなかったり、面倒な仕事を割り振られたりしてしまうのです。
それは意地悪でされるのでは無く、ドライに社内ルールに乗っ取った配車なので文句は言えません。
日頃から持ちつ持たれつでコミュニケーションを取っていれば、こちらの都合に合わせて融通を効かせてくれるのです。
先輩・同僚とのコミュニケーション
『百聞は一見にしかず』と言う言葉がある様に、いくら地図や引き継ぎ資料を読み込んでも、実際に行った事のある人の経験談に勝る物はありません。
ハイヤー乗務員は人と会話をする機会が少ないせいか、基本的に話し好きや教え好きな人が多いので、質問すれば答えてくれる人が殆どです。
とは言え、普段から仲良く話す人と、挨拶もロクに出来ない人とでは、教えてくれる内容(密度)に差が出るのは当然の事でしょう。
また台数口と言って、一つの現場に複数の車両が手配される仕事があるのですが、そういった現場でも、普段からコミュニケーションが取れている先輩・同僚なら、こちらが立ち回りし易い様に協力してくれたりするものです。
持ちつ持たれつの精神で
社内において必要最低限のコミュニケーションに抑えると言う事は、必要最低限のサポートしか受けられないと言う事です。
「自分はそれで良い」と思うなら無理にコミュニケーションを取れとは言いません。
しかし長く仕事を続けていくのなら、キチンと挨拶をし、たまには雑談でもし、時には相手の要求を飲んであげたりする事で、いざという時に自分を助けてくれる味方を増やしておくのは必要な事だと私は思います。
意外なコミュニケーション相手
お客様や社内の人間だけで無く、意外な所でコミュニケーション能力が必要になる事もあります。
外部施設への問い合わせ
オフィスビルの車寄せの位置、ゴルフ場でのキャディバッグの受け取り方など、自分で調べても先輩に聞いても分からないと言う事があります。
そんな時は、調べても分からないから仕方ないで済ますのでは無く、その施設の代表電話へ電話して聞いてみるまではしましょう。
社会人として恥ずかしく無い程度の言葉使いが出来れば良いので、コミュ力が必要と言う程ではありませんが、臆せず電話が出来る程度のコミュ力は必要と言えます。
道路におけるコミュニケーション
道路には沢山の車や自転車や歩行者がいます。
信号や標識に従っていれば良いと言う訳では無く、時にはアイコンタクトやハンドサインで他者とコミュニケーションを取る必要があります。
更に言えば、車線変更や合流などでは視界の関係でアイコンタクトすら出来ない事もあります。歩きスマホの歩行者がこちらを見ていないケース等もありますね。
そういった状況で事故を起こさず安全に運行する為には、自分本位では無く相手の立場に立って挙動を予測する能力も必要になります。
見知らぬ相手の行動を予測して譲り合う。これも高度なコミュニケーションと言えると思います。
『コミュ力』≠『会話力』
先ほども触れた様に、
コミュ力が高い人=会話が上手な人
と思われがちですが、わたしはそれは少し違うと思います。
確かに会話は、相手を知り自分を伝える為に有効な手段ではありますが、唯一無二の手段ではありません。
会話が出来なくてもコミュニケーションは取れますし、ハイヤー乗務員はそれをやらなければならない職業なのです。
コミュ力とは思いやりの行動
コミュニケーションで大切なのは
- 相手を知る事
- 自分を伝える事
- お互いの為に行動する事
だと私は思います。
相手の事ばかり優先しても疲れてしまいますし、自分本位ばかりでは相手は応えてくれません。
相手の立場に立って気持ちを察し、自分に出来る範囲で無理の無い行動をする。
そんな思いやりの行動こそが、ハイヤー乗務員に求められるコミュ力だと、私は考えます。
まとめ
改めて今回の内容をまとめると
ハイヤー乗務員は会話は少ないが、それだけに高めのコミュ力が必要!
と言う事になります。
コミュ力に自信が無くても仕事をする事は出来ます。しかしそれではハイヤー乗務員としての本当の楽しさ、やり甲斐を感じる事は出来ないでしょう。
初めはコミュ力が無くても大丈夫です。
しかし長く仕事を続けたいなら、お客様や社内の人間とコミュニケーションを取る努力を怠らないで下さい。
コミュニケーションを取ろうとする姿勢は、きっと相手にも伝わりますし、少しずつでもコミュニケーションが取れる様になって行きます。
私もハイヤー乗務員になる前は、上司などの『偉い人』を前にすると卑屈にキョドってしまうタイプでしたが、今ではお客様から感謝の言葉を頂ける様になりました。(たまに…ですが)
コミュ症でも出来る仕事だからコミュ症のままで良いや
では、つまらない日々の繰り返しになり、いずれは辞めてしまう事になるかも知れません。
今回はハイヤー乗務員と言う仕事へのハードルを上げる様な内容となってしまいましたが、私は安易な勧誘をしたくないのでハッキリと本音を書かせて頂きました。
ハイヤー乗務員への転職を考えている方への参考になれば幸いです。
それでは最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
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